君は『秒速5センチメートル』を見たか
公開日: 2025-10-26

秒速を語りたい。
どうも、おもしろ界隈ブログ2回目登場、ひかぽん卍です。
今回は最近実写化が公開され話題となっている『秒速5センチメートル』について、アニメ版小説版をもとに感想を書いていく。
なお本ブログはあくまで私の感想をまとめたものなので、一部自語りな点もあると思うのでご了承願いたい。
【ネタバレなし】 秒速の良さ
本作は2007年公開、新海誠監督の3作品目の劇場公開作品である。
「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」の短編3話構成、全63分で遠野貴樹という男の人生の一部を描いた作品となっている。
本作の特徴として、登場人物の心情描写が丁寧に描かれているという点が挙げられる。この心情描写を通じて、観客はこの作品に強く引き込まれることになる。
特に私は主人公たちが感じた苦しみや痛み、うれしいといった感情を全く同じように感じていた。まるで自分が主人公になったかと思わせられるぐらいには。
また本作は心が大きく揺さぶられる作品であり、鑑賞後にはなんとも言えない気持ちになってしまう。それは一部では本作が鬱作品と語られていることからもわかる。
しかし私は、本作は遠野貴樹という他者の人生を通じて、自らの人生を振り返る機会が与えられ、そして人生そのものについて考えさせてくれる。そんな作品であると感じている。
もちろん見る人によって大きく見方が変わるというのも本作の特徴だが、そうした違いが観客の人生や思考にそれぞれ違った影響をもたらしてくれるというのも、私がこの作品を好きな理由なんだと思う。
ちなみにだが、私は本作の中で1番好きな話が第2話「コスモナウト」だ。
この話では主人公が遠野貴樹から澄田花苗という女の子に変わる。澄田は遠野に恋をしている女の子で、恋にすごく前向きで一生懸命。等身大の女子高生といった感じがして、一番好きなキャラクターである。
また遠野貴樹という男を澄田を通じて見られるというところも、コスモナウトの好きなポイントである。
ここまで読んでくれた方で、まだ秒速5センチメートルを見ていないという方は是非ともこの作品を見てほしい。そしてこの作品をどういう風に感じたかを私に教えてほしいと思う。
秒速は恐らくほぼ全てのサブスクで見ることができるし、今度フジテレビで再放送をやるらしいので、気軽に見ることができる。
また鑑賞後に本作の主題歌である、山崎まさよしの『One More Time,One More Chance』を聴いてほしい。飛ぶぞ。
【ネタバレあり】秒速を通じて、人生をみる。
「秒速5センチメートル」という人生
私が感じる秒速の魅力、それは「人生」をかなり現実的に描いているという点である。
それは現実の残酷さをかなりリアルに描いており、我々が当たり前に過ごしている部分を明確に映し出す。
例えば、遠野と明里の関係である。
彼らは小学生時代お互いの存在を支えにしており、中学1年生のときには約3時間+4時間の大移動を経て会いに生き、初めての体験をする。
それほどまでにお互いがお互いを思い合っていたにもかかわらず、彼らはいつしか文通をしなくなり疎遠になっていく。
そこから先の遠野貴樹の(そして明里の)10何年かでお互いが姿を合わせることも連絡を取り合う事もない。それはおそらく『秒速5センチメートル』の物語が終わった先もであろう。
これは物語としてはあまりにも残酷な展開のように感じるが、現実で考えればあまりにもありふれた話だと思う。
私も保育園児のころや小学校のころに親友と呼べる存在は何人もいたが、今では誰とも連絡が取れないし、何年も姿を見ていない。
別れてしばらくは年賀状等でお互いの現状を1年おきに伝えあっていたが、いつしかお互い年賀状を送らなくなった。
しかも何が酷いって、このことを本作を見るまで忘れていたということだ。連絡取ってないな~とかでもなく、彼らの存在自体を忘れかけていた。かなり恐ろしいことだと思った。
また小説版では、第3話「秒速5センチメートル」で大人になった遠野貴樹について、アニメ版からさらに掘り下げがなされている。
それから考えるに、遠野貴樹が一生明里のことを思っていたかといえば、そんなことはないように思う。
遠野が大学生になってから、彼は数人の女性と付き合うことになる。その頃には、彼の中で明里の存在が明確に出てくる描写はかなり少ないし、少なからず付き合っている最中は相手の事を意識して考えているように見える。
だがしかし彼の心の奥底には、明里と過ごした日々が覚めぬ夢のように残っていたのだと思うし、彼が明里と過ごした輝かしい想い出はいまや彼の進むべき道を1本、あまりにも険しい1本の道に絞るようにして照らしてしまっているのだろう。それが彼にとって皆が表現するような呪いというものになってしまったんだなと思う。
私も中学や高校の頃の思い出がたくさんあるが、時々その頃を思い出しては、もうあの日々のように過ごせることは二度とないのだと少し悲しく思ってしまう。
当時は楽しいとは思いながら、どこかでまだ何回でも青春を味わうことができるのだろうと感じていたけれど、今思い返してみると全くそんなことなさすぎて面白くなってしまう。まじで青春って数年しか送れないのに、ずっと頭にこびりついてしまうのってずるいと思う。
こんな風に我々が普段当たり前のように行っていること、考えていること、だけどその当たり前さ故に無意識的になっている部分に、本作はかなりフォーカスしている。
本作を見ていると、あくまで遠野貴樹という男の人生を見ているはずなのに、まるで自分の人生を掘り返されているかのような気分になる。
0.0003%という奇跡
そんなこんなで、本作を見ていると自分の人生についての色々を思い出してしまう。
保育園のころから小学校へ、そして中学校、高校、大学へと、遠野貴樹の人生を追体験している中で、そこに自分の人生を重ね合わせていこうとしてしまう。そんな不思議な力が本作にはある。
今までいろんな人たちと出会ってきて、そのうち何人かとは友達と呼べる関係や、親友と呼べる関係になって、初恋もあったな~とか。
それに今でも地元を歩いていると、どこかあの頃の友人たちと会えるのではないかと期待してしまう自分がいる。正直あまりにも年が経ちすぎて、もう姿を見ても気づくことはできないだろうに、もしかしたらあの髪は!とか、あのメガネは!とか思ってちょっと覗き込んで見たり。(これを見ている方もそんなことをしているのか?それとも俺だけ?)
自分の家にあるものに少し注目してみると、例えばあの時親友だった子にもらった漫画があったり、好きだった子にもらったマグカップをまだ使っていたり、すぐ近くにもしっかりと想い出が詰まっていた。今まではそんなこと気にせずにいたのに、ちょっと気にしてみればおもしろいぐらいに想い出がいっぱい見つかる。
最近、本作の実写版が劇場で公開された。
実写版に関しては、自分が好きな秒速5センチメートルとはかなり違ったものになっていたので、本記事では詳しく取り扱うことはない。
しかしその実写版の中で、唯一アニメ版にない要素で好きな部分があったので、少しだけ紹介させていただく。
それが「人間が出会う確率は0.0003%なんだよ。」という台詞である。
これは大人になった明里が駅のホームで聞いた台詞である。その後、明里は「人間が出会う確率が0.0003%なら、再会する確率はもっと低いんですかね」みたいな台詞を言う。
このセリフは、私が感じる秒速の魅力の1つをまさに表したような台詞だった。
遠野貴樹と明里の出会いも、澄田花苗と遠野貴樹の出会いも、とてつもない確率で起きている。さらに言えばそのとてつもない確率の果てに、愛する人ができるというのは、なんだかとてもロマンチックに感じる。
私は運命なんてものはまったくもって信じていない。だからこそ出会いというものがとてつもない偶然のうえに、奇跡のように成り立っていることに気づかされたとき、少し感動した。
今の自分がそういう奇跡の連続が交じりあった果てにいることを実感したし、奇跡の先に続く人々との関係というものを大事にしていこうと思った。
もちろんそれは決して関係を途絶えさせないようにする!ってことではなく(というか死という終わりがある以上、いつかは関係の終わりは来てしまうし)、いつか自分の人生を振り返ったときに、自分の人生を誇れるように、あの時も楽しかったと想えるように、落ち込んだ時に前をみるきっかけになるように、なればいいなってことである。
それは「秒速5センチメートル」の終わりで、遠野貴樹が桜を見て、踏切であの人のような姿を見て、少し笑った顔で前を向いて進んだのと同じように、
彼にとって呪いのようになっていた想い出の数々が、また彼を前へと進める原動力に変わったように、である。
おわりに
ここまで読んでくれた皆さんありがとう。
あまりにも勢い任せで書いてしまったがゆえに、読みづらいところがかなりあると思うし、今見返してみるとかなり恥ずかしいことを書いていると自分で思う(笑)。
ただそんな感情を引っ張り出してくれるのが、『秒速5センチメートル』の持つ魅力だと思うし、実際自分が本作を見て感じた部分である。
のでこれは秒速へのラブレターだとして割り切ってしまおうと思う。
もしあなたが本作を見て感じた部分、想った部分があるなら私にも教えてほしいと思う。あなたなりの『秒速5センチメートル』を教えてほしいし、語り合いたいなと思っている。
ちなみに筆者は本作を見終えてから「新海誠好きかもしれん。」と思い、過去作をちょくちょく見ている。
『言の葉の庭』はもう見たのだが、こちらの作品もかなり面白かった。45分に良さが詰まっていた。『君の名は』も見返したいと思っている。
おすすめの新海誠作品があったら、そちらも教えてほしい。
長くなってしまったがここにてお別れ。ではまた今度🤚
再びのエンディング